文藝と絵畫

芸術に関して思うところ、芸術の試み、日々の雑感。

ポール・ヴァレリー研究

『海辺の墓地』125行目より

  ああ、太陽は…… 魂にとっては 何という 亀の影か、
  大股で走って不動のアキレスは。

 「太陽よ、お前は死を仮面で覆っている」(『蛇の素描』より)という言 葉から考えて、太陽=死とするならば、人間が抱く永遠という理想は結局実現し得ないものであり、死に向かう速度があまりにもゆっくりとし ているため、それを覚えることなく過ごしている人間の思考には矛盾が あるということになる。永遠というものは嘘なのだ。だから、ゼノンは 残酷・過酷cruelなのである。そしてこの連はピンダロスエピグラフ

  不死の生命を望な、わが魂よ、
  汝の可能なる分野を汲み尽くせ。

という言葉に通ずる。不死の生命とは永遠のことであり、それを望むなというのは、死を見据え生のなかで自らを充足させねばならないという意味になるだろう。そして、それはカミュ『異邦人』の考察で触れたニーチェの超人思想へとつながる。実際ヴァレリーはニーチェに関する記述を多く残しており、 その思想には少なからず影響を受けていたものと思われる。